【作品紹介】浮世絵・江戸絵画と動物1ー狐と狸ー

狩野晴川院「狐狸図」

絹本著色、94.4×28.9cm、天保5年ー弘化3年(1834-46年)

 

人間を化かす動物といえば、みなさんは何を思い浮かべますか。カワウソや貉や蛇……を挙げる「化物」通の人でなければ、きっと多くの方が「狐」と「狸」を思い浮かべるのではないでしょうか。それは、江戸時代から変わりません。江戸時代の絵画作品を見てみると、その作例はそこまで多くはないものの、人を化かして楽しそうに遊ぶ狐や狸の姿が描かれています。今回は、そんな狸と狐の描かれた江戸絵画をご紹介します。

作者は狩野晴川院(狩野養信、1796―1846年)。将軍家に仕えた狩野派の絵師で、江戸城本丸御殿の障壁画再建の総指揮も担った人物です。そんな絵師が晩年に描いたのがこの《狐狸図》でした。この図では対になった狸と狐の、どこか微笑ましい姿が描かれています。向かって左側、斑の毛皮の狸は人のように後ろ足で立ち、抜き足差し足こちらへ向かってきますが、その手つきはなにかを企んでいるようにも見えます。一方狐は水面を覗き込み、何かに化ける準備でしょうか。頭に草を飾っています。化狐といえば木の葉を頭にのせるイメージが強いですが、このように頭を飾る狐の図は狩野派の伝統的な画題であったようです。他の作品を参照すると、これが美しい女性に化けるための準備であることがわかりますが、女性に化けて男性をからかう狐の話は、『今昔物語集』が編まれた昔から存在しました。なかには、美しい女に化ける狐の姿を女性の化粧に重ねて、ユーモアたっぷりに描いた江戸の女性漢詩人の作品も残されています。

現在狸と狐はともに人を化かす動物として知られていますが、ある調査によると、狸はどこか愛らしく憎めない存在として、狐はずる賢い存在として広く認識されているそうです。『平成狸合戦ぽんぽこ』に出てくる狸と狐を思い出すとそれも頷けます。これにはイソップ童話などのイメージの影響ももちろん大きいと考えられますが、古くから伝わり浮世絵等の題材にもとられた「ぶんぶく茶釜」の狸や、神秘的な「九尾の狐」などから生まれたイメージが今に残っているのかもしれません。そう考えながらこの画の二匹に目を移すと、おっちょこちょいの狸と、澄まし顔の狐のようにも見えてきます。化かされるのは困ったものですが、この二匹の企みが無事成功することを思わず祈ってしまうような、そんな微笑ましい双幅です。